遺言について

 自分が生涯をかけて築き、かつ守ってきた大切な財産を、最も有効・有意義に活用してもらうために行う、遺言者の意思表示です。
相続は、まず遺言による相続を基本とし、それがないときに初めて法定相続を適用することになっています。 しかし、法定相続は、民法によって画一的に定められているため、全ての家庭の事情に合った結果となるとは限りません。 遺言は、そのような法定相続を遺言者の意思によって変更するもので、その家庭の事情に合った相続財産の分配を可能にします。

 遺言が特に必要と思われるケース
  • 夫婦の間に子供がいない場合
    夫婦の間に子供がいない場合に、法定相続となると、夫の財産は、妻が4分の3、 夫の兄弟が4分の1の各割合で分けることになります。しかし、連れ添った妻に財産を全部相続させたいと思うでしょう。 そのためには、遺言をしておくことが必要なのです。兄弟には、遺留分がありませんから、 遺言さえしておけば、財産を全部妻に残すことができます。
  • 再婚をし、先妻の子と後妻がいる場合
    先妻の子と後妻との間では、とかく感情的になりやすく、遺産争いが起こる可能性も高いので、 争いの発生を防ぐため、遺言で定めておく必要性が特に強いといえます。
  • 長男の嫁に財産を分けたいとき
    長男死亡後、その妻が亡夫の親の世話をしているような場合には、 その嫁にも財産を残してあげたいと思うことが多いと思いますが、嫁は相続人ではないので、 遺言で嫁にも財産を遺贈する旨定めておかないと、お嫁さんは何ももらえないことになってしまいます。
  • 内縁の妻の場合
    婚姻届けを出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、妻に相続権がありません。 したがって、内縁の妻に財産を残してあげたい場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。
  • 個人で事業経営や農業をしている場合
    事業等の財産的基礎を複数の相続人に分割してしまうと、上記事業の継続が困難となりましょう。 このような事態を招くことを避け、家業等を特定の者に承継させたい場合には、その旨きちんと遺言をしておかなければなりません。
  • 相続人が全くいない場合
    相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。 したがって、このような場合に、特別世話になった人に遺贈したいとか、お寺や教会、 社会福祉関係の団体、自然保護団体、あるいは、ご自分が有意義と感じる各種の研究機関等に寄付したいなどと思われる場合には、 その旨の遺言をしておく必要があります。

 上記の場合のほか、各相続人に承継させたい財産を指定したいときとか、あるいは、 身体障害のある子に多くあげたいとか、遺言者が特に世話になっている親孝行の子に多く相続させたいとか、 孫に遺贈したいとかのように、遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて、 具体的妥当性のある形で財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要があります。

 遺言の方式

 一般的に使われる遺言の方式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

  • 自筆証書遺言
    遺言者が自分で筆をとり、遺言の全文・日付を自書し、署名、押印をすることによって作成する方法です。
  • 公正証書遺言
    遺言者本人の口述に基づき、公証人が遺言書を作成する方法です。公証人が遺言者の口述を筆記し、 これを遺言者および2人の証人に読み聞かせ、または閲覧させます。その筆記が正確なことを承認した後、 遺言者・証人が各自署名・押印し、さらに公証人が方式に従って作成した旨を付記して作成されます。 適格で完全な遺言書を作成できる代わり、それなりの費用が必要となります。基本的に公証人役場で作成されますが、 遺言者が公証人役場に出向くことが不可能な場合は、遺言者の自宅や入院中の病院に公証人が出張することもあります。
  • 秘密証書遺言
    遺言者が、遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言と異なり、自書である必要はないので、 ワープロ等を用いても,第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で、これを封じ、 遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上、公証人及び証人2人の前にその封書を提出し、 自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し、公証人が、その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後、 遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
 検認手続き

 検認とは、家庭裁判所において、相続人や受遺者などの利害関係者立会いの下で、 遺言書の用紙、筆記具、内容、日時、証明、捺印の実情を検証する手続で、遺言書が開封されたときの状態を証拠として保存し、 その後、変造・偽造がなされることを防止するためになされるものです。 検認は、公証役場に保管されて変造・偽造のおそれがない公正証書遺言を除く遺言書に必要な手続です。
ただし、検認は、遺言書の内容を審査するのではなく、ただ外形的に確認するための手続ですので、 遺言書検認は遺言書が有効であるか否かを判断する手続きではありません。

 遺留分

 遺留分とは、被相続人が遺言によっても処分できない相続人の持分のことです。相続人たる子(その代襲相続人を含む)、 直系尊属、配偶者について認められている遺産の一定割合を確保できる権利をいいます。
その一定割合とは直系尊属のみが相続人であるときは3分の1、その他の場合は2分の1と定められています。 具体的には各相続人の法定相続分に直系尊属のみの場合は3分の1、 その他の場合は2分の1を乗じた割合が各相続人の遺留分割合となります。 例えば法定相続分2分の1の妻が遺留分を侵害された場合、遺留分割合は2分の1の2分の1即ち4分の1となります。